学生や若い技術者に身につけて欲しいこと

NPO法人ITプロ技術者機構 山戸 昭三

◆もっと自己分析し、自分の価値判断を持つ

最近、大学院で学生に講義をする機会が多い。産業界から日本の高度IT人材を養成するためにさまざまな講師を派遣している。ある講義のなかで学生に聞いてみた。「あなたは、どのような分野のどのような専門家または技術者になろうとしていますか?」私の期待した回答は、「自分は~~が得意なので~~したい」、「将来、~~になる夢があるので~~をしたい」、または「私は、このような人生を過ごしたい。だから~~のような生き方を大切にしたい」としいうものであった。ところが、学生からの回答には、「システム開発におけるエンジニアになりたい」とか「最初は、システム開発をやりたい、早く上流工程のところをやりたい、その後PMになり、ITコンサルタントになりたい」といった回答が多かった。期待はずれだったのは、自己分析の部分が少なかったからである。自分自身のキャリア・アンカー(こだわりたい生き方)がどのようなところにあるのかを、じっくり考えて欲しかった。今の学生は幸せだと思う。いろいろな企業情報がインターネットやさまざまなメディアでいくらでも収集できるし、企業から講師がやってきて手取り足取り知識や考え方を教えてくれる。しかし学生は、情報過剰気味であり、知っているようで意外に薄っぺらなことが多い。誰かが考えたことをそのまま自分の考えとして思いこんでいることがある。本当の自分の興味、能力、こだわりたいところは何かを、考えるのは最後の最後は、自分自身しかいない。好きこそものの上手なれ、将来の夢とやりたいことがマッチングすれば、のびのびと仕事ができて、3Kとか7KといわれるIT産業も社会的使命の高い面白い産業になるのではないか。もっとも、それでもおかしな職場もある。そのような職場は、自分の将来像と照らして間違っていると判断すれば転職しても良い。この場合にも、自分が何にこだわって生きているのかということは大切な判断基準になる。

◆自分の活動を分析し評価する

上記の高度IT人材育成プログラムでは、学生が研究課題を発表する機会が多く作られている。発表には、結構慣れている。しかし、内容的に見ると研究活動を淡々と述べているような発表が多い。聞いている人は、事実を単に聞きたいと言うことではなく、その研究活動から何をどのように学び取ったのか、その研究の社会的な意義は何なのか、成果物を創り出すプロセスをどのように分析し評価しているのか、などを聞きたいのである。研究中に、その観点でデータを蓄積しておらず、持っていたとしても、それがまとめられていないことが多い。説明の順序も、時系列的にあれをした、これをした、こうなった、という話し方ではなく、テーマ、背景、研究の価値を話した上で、マネジメントプロセスとプロダクトプロセスを分けて話すなどの、聞き手を意識した説明をするよう心がけなければならない。(2008.3.15)