NPO法人ITプロ技術者機構理事 平泉 哲史
◇それはないでしょう。
昔、「”流通”担当のSEです」と自己紹介され、打合せの中で「”上代”ってなんですか?」と。腰が抜けました。また、ある会社のベテランSEが、データモデリングに取りかかろうとしていた矢先に”仕向先”を「しこうさき」と読んでお客さんが目を白黒させたこともあります。データの意味も知らずに何が”OO設計”なんでしょう。
◇小生のナマクラさ。
小生は昭和55年に情報工学部門の技術士の認定を頂戴しましたが、近年は技術よりも人間くさい分野(つまりは”経営”)の方が性に合っている気がしています。
20年以上前になりますが、その頃新車の開発に24カ月かかっている中で、プレス金型の製作に8~10カ月を要しボトルネックになっていました。当時曲面数学理論を駆使した高価なCAD/ACAMシステムが花盛りでしたが、現場のボディー設計者等が高次元方程式をどうやって料理していいか分からず、使いこなせない状態だったんです。それよりも”倣い加工”を手本にして、”オス型”モデルを三次元測定機でデータ化し機械加工の発想でオフセットをかければ板厚一定の”メス型”の数値モデルが創成できるのではないか、と考えました。
結論からすると、曲面理論には見向きもせず「技術的に見るべきものがない」と各方面からさげすまされながらも、「金型が早く・安く加工できれさえすればいいはず」との信念で取りかかり1年半後に販売開始できました。”下代”を下げたためか海外も含めて随分売れました。
この過程で、お客さんの技術部長と一緒になって上申書を作成したり、開発費の調達に銀行の支店長向けのビジネスプランを作成したりしました。気が付くと「ソフト作りよりもこっちの方が経営に直結する」との実感を覚え、以来、特に中小企業の社長さんとの会話が大好きになりました。
◇儲かる企業の法則
『理念と経営』誌では、企業の成功法則は社長力、管理力それに現場力の”三つの力”が三位一体となることと断じています。”三つの力”は、顧客(にとっての)価値を生み出す力(”コンピタンス”と言わない所が好き)です。”社長力”とはビジョンを持ち顧客価値を生み続ける方策を考える力、”管理力”とは社長が考えた方策に対する具体的な提案や模索をする力、”現場力”とは顧客価値の差別化を実践する力、ということです。
経営資源は”人・物・金”であるとして、その経営資源をうまく活用して利益を生み出すのが経営だ、と言われますがイマイチ具体性がないと思っていた所、『理念と経営』を目にすることができ、膝を打ちました。”三つの力”は「経営資源の源泉」だ、と感じ入ったわけです。
◇「経営」を力強くするIT
”経営資源”にITが直裁的に繋がるイメージを持つことはできませんが、”三つの力”とITには結びつくものがあります。
経営を強くする---即ち、当該の情報システム(又はIT利用)が”三つ”の内のどれを支えるのかを明確にすればITの価値が自ずと浮き彫りになります。所謂基幹システムは管理力(”模索”に対する事実の集積とモニタリング)に直結するでしょうし、CADなどはQCDを高め現場力に貢献します。情報システムの分類で良く言われる”基幹系・情報系”とか、”トップ向け・管理者向け・担当向け”の捉え方では、情報系や担当向けの情報システムを担当する情報技術者に対して経営センスの研鑽の道を閉ざしてしまいます。
小生は事ある毎に”成功法則”を一般企業に対しても情報産業に対しても言い続けることにしました。(2008-03-02 23:46:19)