組込み物語り

NPO法人ITプロ技術者機構 小峰史郎

◇目に見えないコンピュータ

みなさんは身の回りのコンピュータを数えたことがありますか?パソコンだけがコンピュータではありません。電卓はもちろんデジカメやテレビ、ビデオなどのデジタル機器にはマイクロプロセッサという小さなコンピュータが使われています。家庭にあるガスの検診メータにもマイクロプロセッサが入っていて安全装置を兼ねた大切な働きをしています。自動車に乗れば、カーナビ、エンジンの制御などに多くの小さなコンピュータが使われています。こうしたマウスもキーボードもないけれど、目に見えないところで働くコンピュータが組込み計算機です。

◇いつから組み込まれたのか?

デジカメやカーナビと言うと新しい技術のようですが、組込み計算機はコンピュータの歴史といっしょに発達したともいえます。コンピュータが今のように誰でも手軽に使える道具になったのは比較的最近のことで、ずっと「複雑すぎる」とか「非人間的で馴染めない」などと言われたものでした。(文献1)初期のコンピュータは人を月に送るとか、原子炉を制御するというような人にできないことに多く使われたのだから無理もありません。そうした技術は、航空機、鉄道、電力、通信など社会の隅々で使われ、ひとつ間違えば大きな社会問題にもなりかねない縁の下の力持ちとして発展してきました。

◇相手は現実の世界

組込み計算機の相手はロケットだったりロボットだったりいつも現実の世界です。リアルな世界とリアルタイムで対話する組込み計算機から見れば銀行のATMを使う人間も現実の対象です。そうした組込み機器の設計はハード、ソフトの垣根を越えてシステムの細かい動作を緻密に作り込んでいく仕事だからこそ、人とコンピュータの両方の気持ちを理解し想像することが大切です。プログラミングができるだけではなく、電機、機械、通信、制御から人間工学まで幅広い分野に関心を持ち注意を払う技術者が必要とされるのも相手が現実の世界であればこそでしょう。

◇ささやかな喜び

神社や仏閣を建立した人が名を残すことはあってもそこで働いた職人の名前が残らないのに似て、組込み機器の技術者が賞賛されることはありません。それでも自分の手がけたシステムがひっそりと働き続けて世の中を支えているという自負があります。それは、教え子が立派に成長して社会の一員になったときの先生の喜びにも通じるように思えるのです。そうした無形の報酬を次世代の技術者も手にして欲しいと願っています。

参考文献:
Ed Post Real Programmers Don’t Use PASCAL  Tektronix Inc. 1982
(2008-05-07 00:51:21)